EP / COMPASS / Subsidiary Management

EP・COMPASS厳格化で変わる、シンガポール子会社の管理体制

駐在員コストの上昇とEP・COMPASS制度の変化により、日系企業は「日本人駐在員を置いて管理する」前提を見直す場面が増えています。会計・税務・本社報告体制にも影響する論点を整理します。

シンガポールで日系企業が現地法人を運営する際、以前よりも「駐在員を置いて管理する」ことが簡単ではなくなっています。

背景には、駐在員コストの上昇だけでなく、Employment Pass(EP)の給与要件やCOMPASS制度があります。シンガポールでは、外国人専門人材を受け入れつつも、現地人材との補完性や企業側の雇用バランスを重視する方向が強まっています。

EPは給与要件だけでは判断されない

MOM(Ministry of Manpower)によると、EP申請では、まずEP qualifying salaryを満たす必要があります。そのうえで、原則としてCOMPASSというポイント制の審査も通過する必要があります。

2026年8月時点では、一般セクターのEP最低給与は月額SGD 5,600、金融サービスでは月額SGD 6,200です。さらに、2027年1月1日以降の新規申請では、一般セクターは月額SGD 6,000、金融サービスは月額SGD 6,600へ引き上げられる予定です。

また、給与要件は年齢に応じて上がります。例えば、45歳以上では、一般セクターで現在SGD 10,700、2027年以降はSGD 11,500まで上がります。

COMPASSで企業側の体制も見られる

COMPASSでは、候補者本人だけでなく、企業側の状況も評価されます。給与、学歴、国籍の多様性、ローカル雇用への貢献などがポイント化され、原則として40点以上が必要です。

基本となる評価項目は、C1 Salary、C2 Qualifications、C3 Diversity、C4 Support for local employmentの4つです。各項目は原則として0点、10点、20点のいずれかで評価され、合計40点以上でCOMPASSを通過します。

項目 評価の内容 点数の考え方 日系企業への示唆
C1 Salary 候補者の固定月額給与を、同じセクターのローカルPMET給与水準と比較します。 90パーセンタイル以上で20点、65パーセンタイル以上90パーセンタイル未満で10点、65パーセンタイル未満で0点。 EPの最低給与を満たしていても、COMPASS上は十分な点数にならない場合があります。駐在員・管理人材の給与設計が重要になります。
C2 Qualifications 候補者の学歴・専門資格を評価します。 MOMが公開するトップ教育機関リスト掲載校、その他の高評価大学、高度に認められた専門資格等で20点、その他の学位相当資格で10点、学位相当資格なしで0点。 日本本社から派遣する人材でも、職務経験だけでは点数にならない場合があります。学歴・資格の確認と証明書類の準備が必要です。
C3 Diversity 候補者の国籍が、その会社のPMET社員の中でどの程度の割合を占めるかを評価します。 候補者と同じ国籍の割合が5%未満で20点、5%以上25%未満で10点、25%以上で0点。PMETが25名未満の会社は原則10点。 日本人駐在員が多い会社では、日本人候補者の追加採用が不利になる可能性があります。国籍構成の偏りも人員計画上の論点になります。
C4 Support for local employment 会社のローカルPMET比率を、同じセクター内の企業と比較します。 セクター内で50パーセンタイル以上なら20点、20パーセンタイル以上50パーセンタイル未満なら10点、20パーセンタイル未満なら0点。PMETが25名未満の会社は原則10点。 ローカル人材をどの程度雇用しているかが、EP申請のしやすさにも影響します。現地法人の人員構成は、単なる人事問題ではなく事業運営上の前提になります。

PMETとは、Professionals, Managers, Executives and Techniciansの略で、専門職、管理職、経営・幹部職、技術職などのホワイトカラー人材を指す概念です。C2の20点対象について、MOMが公開している2026年適用のトップ教育機関リストでは、日本の対象校として、Keio University、Kyoto University、Osaka University、The University of Tokyo、Tohoku University、Tokyo Institute of Technology、Waseda Universityが掲載されています。なお、東京工業大学は現在のInstitute of Science Tokyo(東京科学大学)の前身校です。実際の申請時には、EP申請フォーム上の学校名・学部名の選択と、学位証明・確認書類の提出要否を確認する必要があります。

この仕組みで重要なのは、COMPASSが「候補者個人の能力」だけを見ているわけではない点です。C1とC2は候補者本人に関する項目ですが、C3とC4は会社側の人員構成に関する項目です。

つまり、単に「日本本社から管理担当者を送ればよい」という発想では、以前よりも対応しづらくなっています。人材要件、給与水準、企業側の雇用構成を含めて、現地法人運営を考える必要があります。

また、MOMはC5 Skills BonusやC6 Strategic Economic Priorities Bonusといったボーナス項目も設けています。ただし、すべての会社が当然に使えるものではありません。多くの日系子会社にとっては、まずC1からC4の基本4項目で40点をどう確保するかが実務上の出発点になります。

管理部門のローカル化は進むが、課題もある

この流れを受けて、シンガポール法人では管理部門のローカル化が進みやすくなります。現地スタッフが日常業務を担い、日本本社は遠隔で状況を確認する体制です。

ローカル化自体は合理的です。コストを抑え、現地事情に合った運営をしやすくなります。

一方で、シンガポールでは人材の流動性が高く、担当者が数年ごとに転職することも珍しくありません。経理・管理担当者が交代するたびに、会計処理、証憑管理、GST、親子会社間取引、本社報告の前提が引き継がれないリスクがあります。

EP・COMPASSの変化は、単なるビザ制度の話ではなく、シンガポール子会社を誰が、どのように管理するかという実務上の問題につながります。

会計事務所に求められる役割も変わる

このような環境では、会計事務所の役割も「記帳と申告を期限内に行うこと」だけでは足りません。

日本本社がシンガポール法人を管理するためには、以下のような情報が継続的に整理されている必要があります。

特に、駐在員を置かずに現地法人を管理する場合、会計事務所が月次管理の一部を担う意味は大きくなります。

日本本社目線での管理体制が重要に

EP・COMPASSの流れは、単なるビザ制度の話にとどまりません。日系企業にとっては、シンガポール子会社をどのように管理するかという問題につながります。

現地担当者に任せる部分と、日本本社が確認すべき部分を分ける。会計事務所が整理すべき資料、税務論点、月次報告の範囲を明確にする。こうした体制づくりが、今後ますます重要になります。

参考:MOM - Employment Pass eligibilityMOM - COMPASS C1 Salary benchmarksMOM - List of institutions awarded 20 points under COMPASS Criterion 2

駐在員を置かない管理体制を整えたい企業へ

CIC Partnersでは、シンガポールの日系企業向けに、記帳代行、法人税申告、GST申告、本社報告サポート、会計税務レビューを提供しています。管理部門のローカル化後の会計・税務管理についてもご相談いただけます。

管理体制レビューを見る