シンガポールに法人を設立した後、多くの日系企業が最初に外部委託する業務の一つが記帳代行です。現地での人員を最小限にしながら、会計・税務の基礎資料を整えるには有効な選択肢です。
一方で、記帳代行を「法定申告のためだけの作業」と捉えてしまうと、日本本社が月次で見たい情報が遅れたり、費目分類が本社管理と合わなかったりすることがあります。記帳代行を依頼する際は、申告対応だけでなく、月次管理に使える形で数字が整理されるかを確認することが重要です。
記帳代行で行う主な業務
一般的な記帳代行では、会社の取引資料をもとに、会計ソフトへ取引を登録し、月次または四半期で試算表を作成します。対象となる資料は、売上請求書、仕入・経費の請求書、領収書、銀行明細、クレジットカード明細、給与関連資料などです。
| 業務 | 内容 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 売上・入金の記録 | 請求書、入金明細、売掛金残高を確認し、売上と入金を記録します。 | 本社向けの売上区分、プロジェクト別管理、未回収残高の見える化ができるか。 |
| 仕入・経費の記録 | 請求書、領収書、支払明細をもとに費用を分類します。 | 費目分類が日本本社の管理科目と大きくずれていないか。 |
| 銀行照合 | 会計帳簿と銀行明細を照合し、未処理・不明入出金を確認します。 | 立替金、仮払金、親子会社間取引が放置されていないか。 |
| GST関連の整理 | GST登録会社の場合、売上・仕入に係るGST区分を整理します。 | ゼロレート、非課税、国外取引などの区分を機械的に処理していないか。 |
| 月次試算表の作成 | 損益計算書、貸借対照表、総勘定元帳などを作成します。 | 本社が経営管理に使えるタイミングで提出されるか。 |
シンガポール法人で記帳が重要な理由
シンガポール法人は、適切な会計記録を保持し、必要に応じて財務諸表や税務申告に対応できる状態を整える必要があります。IRASは、会社が取引に関する記録、証憑、銀行明細、会計記録などを一定期間保存する必要があるとしています。
また、ACRA上も、シンガポール法人は原則として財務諸表を作成する必要があります。会社の規模や種類によって提出形式や免除の有無は異なりますが、いずれにしても日々の記帳が整っていなければ、年次決算や税務申告の段階で確認作業が増えます。
日系企業が特に注意すべき点
1. 本社報告に使える勘定科目になっているか
現地会計事務所が作成する試算表は、シンガポールの申告や決算には使えても、日本本社の管理資料としては粗すぎることがあります。例えば、旅費交通費、外注費、親会社負担費用、立替金などの区分が本社の見たい粒度と合っていないと、毎月の組み替え作業が発生します。
2. 月次の締めタイミングが遅すぎないか
年次申告に間に合えばよいという考え方で処理されると、月次の試算表が経営管理に使えません。シンガポール現地法人を本社が管理する場合、決算後ではなく、毎月の早い段階で数字を確認できる体制が必要です。
3. 親子会社間取引が整理されているか
日系企業では、マネジメントフィー、出向者関連費用、立替金、ロイヤルティ、配当など、親子会社間取引が発生しやすくなります。これらが一時的な仮勘定に残り続けると、年度末にまとめて整理することになり、税務上の検討も遅れます。
4. GST区分を後回しにしていないか
GST登録会社の場合、記帳の段階でGST区分を正しく整理しておくことが重要です。売上や仕入の内容を後から確認しようとすると、証憑の再確認に時間がかかり、申告前に論点が集中します。
記帳代行を依頼する際に用意する資料
スムーズに記帳を進めるには、毎月の資料提出ルールを決めておくことが重要です。特に、ローカルスタッフが資料を準備し、日本本社がレビューする体制では、どの資料を、いつ、どの形式で提出するかを明確にしておく必要があります。
- 売上請求書、入金明細、売掛金一覧
- 仕入・経費の請求書、領収書、支払明細
- 銀行明細、クレジットカード明細
- 給与、CPF、コミッション、駐在員関連費用の資料
- 親会社・関連会社との請求書、契約書、立替精算資料
- GST登録会社の場合は、GST処理に関係する売上・仕入資料
記帳代行を選ぶときのチェックポイント
料金だけで比較すると、月次管理や本社報告に必要な作業が含まれていないことがあります。依頼前に、次の点を確認すると実務上のズレを減らせます。
- 月次試算表はいつまでに提出されるか
- 日本本社の勘定科目や報告フォーマットに合わせられるか
- 銀行照合や売掛金・買掛金の残高確認まで含まれるか
- GST区分の確認は誰が、どのタイミングで行うか
- 不明取引や証憑不足がある場合の確認フローがあるか
- 年度末にまとめて処理するのではなく、月次で論点を整理できるか
CIC Partnersの考え方
CIC Partnersでは、記帳代行を「申告書を作るための入力作業」ではなく、「日本本社がシンガポール法人を管理するための月次情報を整える業務」と捉えています。
特に、駐在員コストの上昇や管理部門のローカル化が進む中では、現地担当者の交代が発生しても、本社側が継続して状況を把握できる仕組みが重要です。会計事務所が月次の数字、証憑、論点を安定して整理することで、属人的な引き継ぎに依存しすぎない管理体制を作りやすくなります。
参考:IRAS Record Keeping Requirements、ACRA Financial statements: Filing requirements & exemptions